カルチャー

エディション:バルディズ・ボウルチェア

06 May 2013
エディション:バルディズ・ボウルチェア

あるプロダクトの復刻版を作ることとは、オリジナルとまったく同じものを作り直すことでしょうか?昔作られた通りに作り、現代のイノベーションは取 り入れないということでしょうか?プロジェクトの元々の精神を保つことと当時の技術特性を保つことでは、どちらが重要でしょうか?アイディアと理想はどの ように技術的工程と結び付ければ良いでしょうか?

展覧会  “Lina Bo Bardi: Together”(リ ナ・ボ・バルディ:トゥギャザー)の支援を通し、Arper はこうした興味深い疑問に直面しました。Noemi Blager(ノエミ・ブラゲル)氏のキュレーションによるこの展覧会ではアーティスト Madelon Vriesendorp(マデロン・フリーセンドルフ)氏と映画監督の Tapio Snellman(タピオ・スネルマン)氏の才能が作り出したデザイン集合作品 Assemble(アセンブル)で、Lina Bo Bardi(リナ・ボ・バルディ)のデザイン精神、哲学を生き生きと再現しています。Arper は、キュレーターのノエミ・ブラゲル氏がインスティチュートと共同でのBardi’s Bowl Chair (バルディズ・ボウルチェア)の復刻版製作を行うにあたり、パートナーとして参加することとなりました。

そしてリナのデザイン哲学、そして文化、場所、人に対する彼女の不断の働きを出発点としたコラボレーションが実現しました。Arper にとって今回の取り組みは、イタリア系ブラジル人建築家として名を成したリナの最も有名なプロダクトのひとつであるボウルチェアを研究、解釈し、独自の現 代的生産手法を用いた彼女の活動を祝すまたとない機会となりました。

© Marco Covi

1951年、リナ・ボ・バルディが終の住処としたブラジルでデザインされたバルディズ・ボウルチェアは彼女の汎用性に富むスタイルを象徴する作品で す。他の作品の大半と同じく、このボウルチェアも、贅を尽くたデザインのみに価値のあるプロダクトではありません。アクセシブルかつフレキシブルで、どの ような空間にも調和し、一体となることのできるプロダクトです。

多様なコンビネーションが可能なこのアームチェアは、色々な機能を発揮します。コーヒーテーブルのそばに置けば人と人との交流が促されますし、また は傾けて使えば読書に集中するのに向きます。開き口を上に向ければ落ち着いてお昼寝をすることもできます。バルディズ・ボウルチェアはボ・バルディが工業 生産とカスタマイゼーションとのバランスを取り、無駄のない、ユニバーサルな構造、フォルムを持ったものとして考えたものでした。ですがリナ・ボ・バル ディのプロダクトがいずれもそうであるように、その根幹にはあるのはやはり人とものとの関わり合いです。

© Instituto Lina Bo e P. M. Bardi

Arper は、リナの没後1992年にリナのプロジェクトの知的財産権を引き継いだ Instituto Lina Bo e P.M. Bardi(リナ・ボ& P.M. バルディ・インスティチュート)とのコラボレーションによりバルディズ・ボウルチェアの復刻限定版作りに取り組み、リナ・ボ・バルディの思考と Arper の持つ価値観の共通性を改めて実証することとなりました。

© Noemi Blager

コラボレーション開始当初、ボウルチェアの製造に関する文献をあたったものの、その量は非常に少ないものでした。残されていた何点かのデッサンには正確な 寸法やディテールの指定はありませんでした。もう一つの手がかりは、1951年製のレザー製のアームチェアです。現在リナ夫妻が住んでいたサンパウロの Casa de Vidrio(グラスハウス)に置かれているこのアームチェアは、リナ・ボ・バルディ自身が開発したものであることから彼女の指針を最もよく表したものと されています。これに加え、その後作られたものと思われる、座面がより小さくクッション部分が明るい赤のアームチェアも見つかりました。

© ph. varianti.it

Arper が採用したクリエイティブアプローチは、オリジナルプロダクトを解釈しながら、Arper 独自の技術力と現代的な工業生産技術による付加価値をバランス良く組み合わせることで、リナ・ボ・バルディのオリジナルの発想を極力表現するというものでした。

© ph. varianti.it

製作開始初期にある事実が判明しました。バルディズ・ボウルチェアが当時のブラジルにおいて、ほぼすべて手作業で作られていたと言う事実です。グラスハウ スに保存されているオリジナルの寸法、内部構造、縫製の質、縫い目の間隔に至るまでの張り地に関する詳細、充填の密度、そして座面の柔らかさをすべて研究 しました。当初からインスティチュートのディレクターであるアンナ・カルボンチーニ氏、そしてデザイン歴史家のレナート・アネッリ氏が参加し、Arper とインスティチュートとの間でさまざまな通信手段を活用して緊密な話し合いが行われました。ほとんどのやり取りをデジタル手段により行い、図面や写真も データでやり取りしながらリナの発想、感覚を再現していきました。

© ph. varianti.it

とはいえ、やはり役立ったのは共通の身ぶりや手ぶりでした。これはイタリア文化とブラジル文化が深いつながりを持っていることによるものでしょう。 Arper が作った分析モデルを基に、オリジナルの「再現」と技術図面の作成に必要な情報、データの収集がインスティチュートによって行われました。そしてインス ティチュートが手や体を使い、プロポーション、クオリティー、厚み、奥行き、堅さ、柔らかさを身体的に表現しながらオリジナルの品質、寸法を書き写してい きました。

© ph. varianti.it

生産工程と、可能と考えられる改良について研究するため、縮小版プロトタイプを製作しました。オリジナルでは硬くて柔軟性のない型を使い、手作業で鉄を成 形していたため、現代における工業生産上の要求や今の品質規格に合わない部分がありました。そこで Arper では材質にプラスチックを使うことで軽さと強度、柔軟性を持った構造にすることを提案しました。

© ph. varianti.it

シートを固定する丸いスチールフレームへのレザーの張り地など細かいディテールもひとつひとつ丹念に再解釈していきました。モダニズム運動の理想を 求めた建築家、リナのデザイン哲学の特徴は常にアクセシビリティー、熱意、寛大さ表れていました。このことについてリナは1951年、「標準化とは、可能 性を増幅することを意味します。

少人数の人に向けて考えられたものを多くの人にもアクセス可能なものにするということです。つまりそれは向上を意味します。

© ph. varianti.it

なぜなら、初歩的なものを深く研究する方が、無限かつ不特定多数に向けた大量生産に向けて研究するよりもずっと簡単なのですから」と述べています。 この考えと完全に共鳴する Arper では、バルディズ・ボウルチェアのモデル版を作り、多くの人にアクセシブルなものにするという提案の具現化に着手しました。

Arper プレジデントを務める Luigi Feltrin(ルイジ・フェルトリン)、そして CEO&ヴァイスプレジデントの Claudio Feltrin(クラウディオ・フェルトリン)は「本プロジェクトでは限定版の製作により過去と未来の橋渡しを行い、リナの思考とボウルチェアに未来を与 えたいと考えています」と述べています。

© ph. Matteo Imbriani

数ヶ月の話し合いとコラボレーション、製作、検証の末、Arper とインスティチュートは、2012年秋、ロンドンで行われた「“Lina Bo Bardi: Together”(リナ・ボ・バルディ:トゥギャザー)」の展覧会の場でバルディズ・ボウルチェアの第1号となるプロトタイプを発表しました。またSalone internazionale del Mobile di Milano 2013(2013年のミラノ国際家具見本市)年のミラノ・サローネ会期中にはパンターノ通り30番地にある Arper ショールームにおいて、バルディズ・ボウルの製作舞台裏と各製作段階を紹介するサローネ会場外展覧会を行いました。

© ph. Matteo Imbriani

現存するオリジナルはブラックレザーによるもののみですが、リナのスケッチからは、ボウルチェアは他の仕上げや色も想定した上でデザインされていたことが推測できます。この点からボウルチェアは Arper の Catifaファミリーのように多くのバリエーションで展開可能なものだったと言うことができます。このシンプルで本質的な発想は、今日においても通用するものです。

© ph. © Instituto Lina Bo e P. M. Bardi

そこで Arper では現在、バルディズ・ボウルチェアに対する独自の解釈をさらに完全化するべく、リナと、彼女が生きたイタリアとブラジルの文化に息づくクリエイティブ共 生の精神を最大限に反映するファブリックを厳選した上で、仕上げのバリエーションを継続的に広げています。バルディズ・ボウルチェアの復刻により、リナ・ ボ・バルディの熱意のこもった作品に光を当てることが Arper の願いです。

© ph. Matteo Imbriani

ユニークかつ汎用性のあるこの作品をよく観察すると、歴史的観点における彼女の影響力ということを超えて、リナ・ボ・バルディらしいタッチや彼女のヒューマンビジョンが感じられます。
フォルムの進化、継続性を捉えるには実際、時間というレンズを通す他に方法はないのです。

© ph. Matteo Imbriani

Arper が Instituto Lina Bo e P.M. Bardi(リナ・ボ& P.M. バルディ・インスティチュート)に、バルディズ・ボウルチェアの売り上げによる収益の一部を寄付することで、まさにリナも望んだであろう、人に役立つソー シャルプログラムや文化プログラムが組まれる予定です。

バルディズ・ボウルチェアの詳細、最新情報はこちらのサイトでご確認いただけます:bardisbowlchair.arper.com